このページでは、英語の学習メソッドである「シャドーイング」について、学習法・コツ・注意点などを解説しています。
シャドーイングのやり方
シャドーイングは同時通訳式の学習法で、2000年以降になって急速に普及しました。
学生でも社会人でも、シャドーイングを当たり前のようにやっているというのは、一昔前の英語学習と比べると隔世の感があります。
シャドー( shadow )とは「影」のことですが、英語の音声を聞いて影のように即座に声に出していく学習法です。
非常に効果的な練習法なので、英語を学習するなら必ず実践していただきたいと思います。
シャドーイングのプロセス
初級から中級レベルの人は、一通りの学習が終わった英文(音声)を使います。意味がわかっている英語をシャドーイングすることになります。
中級レベル以上の人は、はじめての英文(音声)にたいしてシャドーイングします。なんとか意味を把握しながらシャドーイングすることになります。
- まず、ヘッドホンを用意してください。英語を聞きながら自分でも発声するので、ヘッドホンがないと自分の声が邪魔になって音声が聴きづらいからです。
- 使用する教材は、難しい内容は無理です。初級から中級レベル方は、学習が終わった素材の復習としてやった方が良いでしょう。
- 音声を聞いたら、すぐにその内容を真似て声で出してください。
- できるだけ早く声に出します。意味上の固まり(チャンク)ごとに声に出すことになりますが、3語くらい聞いたら声に出すイメージを持っておいてください。
- 最初は内容を理解する余裕はありません。ただ、音やイントネーションをを真似るようにしてください。
- 何回も繰り返してやっていて、英文を覚えるほど慣れてきたら、内容をイメージしながら声に出せるようになります。
非常に集中力を必要とするトレーニングです。5分程度やるだけで、くたくたになるかも知れません。分量が長すぎると無理なので、一度にやる分量は注意してください。
完璧にシャドーイングするためには、よほど何度も繰り返すか、かなりレベルの低い教材でないと難しいです。シャドーイングに慣れないうちは、教材のレベルもやさしいものを用意した方が良さそうです。
シャドーイングをやってみると、今まで自分は英語をいい加減に聞いていたと実感するようになります。1語1語聞き取って、すぐにその英語を口に出すためには、「完璧に聞き取っている」必要があります。なんとなく、ぼんやり聴いていたら、とても復唱できません。
シャドーイングをやった後の変化
シャドーイングをやってすぐに気づくのは、口が回らないということです。英語が出てこないんですね。
音読などは、自分のスピードで発声すればいいので、わりと楽です。 シャドーイングとなると教材のスピードに付いていかないとなりません。 英語本来のスピードで発声することを強制されることになります。
シャドーイングをやっていると、英語の発音がイントネーションが自然と身につきます。 音の連結や欠落も、ほぼネイティブの発声どおりに真似ないことには、スピードが追いつかないからです。
英語の感覚が一番身に付く練習法です。 3ヶ月や半年ではなく、3年とか5年という長期間にわたって継続したい学習法です。
英語力がついたら音読をシャドーイングに切り替える
シャドーイングは、流れてくる英語の音声を聞き取って、すぐにその英語を声に出します。 結果として、音声に少し遅れて発声することになります。
実は、シャドーイングとは音読の難易度を上げたトレーニングです。
音読もシャドーイングも狙いは同じ
シャドーイングをやるときのポイントは、意味を取りながら発声することです。 内容を把握せずに、ただ音を真似て出すのではありません。
流れてくる英語の音声を聞き取って発声するとき、同時に内容をイメージします。
音読の重要性でも解説しましたが、声に出すときに内容を把握しているという点がポイントなのです。
つまり、シャドーイングも音読も、「発声するときにイメージする」という点が共通しています。
その効果も同じで、英語の音と意味をダイレクトつなげることです。
発声する前の難易度が異なる
音読との違いは何でしょうか。
音読は、テキストを見ながら自分のペースで読むことになります。 音読の前にオーバーラッピングを繰り返すことによって、ネイティブのスピードに近づけるように努力はしますが、基本的には音読は自分のペースで読みます。
それにたいして、シャドーイングはあくまでネイティブ音声のスピードのまま発声し、内容を理解することになるわけです。もちろん、テキストを見ないで音だけを聴いて内容を把握することになります。
音読もシャドーイングも「自分で発声しながら内容をイメージする」という点は同じでも、発声のきっかけとなる入力が異なるわけですね。
- 音読 : テキストを目で見て発声。
- シャドーイング : 音を聴いて発声。
音読の蓄積があるからシャドーイングもできるようになる
上記の説明で、シャドーイングがいかに難しいトレーニングが理解していただけると思います。
同時に、シャドーイングと音読は兄弟のようにペアのトレーニングであることも。
狙いは同じなんです。ただ、入力面の難易度が異なるだけ。
ですから、音読をしっかり練習して、実力がついたらシャドーイングに切り替えてください。
音読 → シャドーイング
初級のうちは音読だけで構いません。英語が上達するにしたがって、シャドーイングを増やしてください。
音読練習(オーバーラッピングを含む)をしっかりやっていれば、英語の音と内容を結びつける力がついているので、すんなりシャドーイングができるはずです。
また音読によって英語を発声する力もついています。
音読をしっかりやってこなかった人は、シャドーイングが難しすぎてまったく練習にならないはずです。
シャドーイングは意味を取りながら発声するから早口になる
シャドーイングは、単に英語の音声を真似て発声するのではありません。 内容を理解しながら発声することで、学習効果の高いトレーニングになります。
結果として、流れてくる音声よりも早口になります。この点を具体的にご説明します。
音だけを使うから発声が遅れる
シャドーイングのやり方のページで、学習ステップをご紹介しました。
意味を取りながら発声するという点について、説明が不十分でしたので、このページで詳しく解説します。
まず、大原則ですが、シャドーイングは聞こえてきた英語音声を口に出すトレーニングです。
テキストを見ながら発声してはいけません。そうするとオーバーラッピングになってしまいます。
シャドーイングは、テキストを見ないで、音声だけを頼りに発声します。
聞こえた英語を発声するわけですから、流れている英語音声より少し遅れて発声することになります。(当然のことですが)
チャンクを認識しながら発声する
発声するときに重要なのは、あくまで意味を取りながら声に出すことです。 意味を取りながらというのは、英語の内容を理解しながら、ということです。
この点は、シャドーイングのやり方をいくら説明しても、なかなか伝わらない部分です。
具体的に見てみましょう。 (以下、Japan Times STから引用した英文です。この英文の音声が流れていると考えて、読んでみてください)
“More than 100 people braved the rain to wait for the building to open at 9 a.m. on June 22. “
シャドーイングは、もっと長い英語の音声を使いますが、やり方の説明だけなので上記のワンフレーズを使用します。
英語の音声で次の内容が流れたとします。
“More than 100 people …
この部分が聞こえた段階で、意味上の一塊(チャンク)だと認識できます。 このように意味をなすチャンクごとに、その意味を理解して発声します。
「100人以上の人々」と和訳するわけではありません。 初級から中級レベル程度の方は、一通り学習が終わって教材でシャドーイングをしてください。音読トレーニングをしっかり済ませた素材なら、いちいち和訳しなくても意味が取れるはずです。
場合によっては、
“More than 100 people braved ..”
まで聞こえて、bravedという動詞が出てきた段階で、それ以前が明確なチャンクだと認識できることもあります。(仮に過去分詞だったとしても、それ以前をチャンクとみなすことができる)
ゆえに、bravedの部分で、すぐに 「More than 100 people」 と発声を始めることになります。
今回は、More than 100 people という明快な表現だったので、people まできた段階で意味がとれて発声が始められます。
英語の内容によっては、動詞が出てくるまでチャンクと認識できないこともあるでしょう。
次の部分に行きます。
“braved the rain …”
ここが聞こえた段階で、「雨をものともしない」という意味上の一塊(チャンク)が認識できます。
ゆえにすぐに 「braved the rain」 と発声します。
“to wait for the building”
ここも、チャンクを認識できるので、
「to wait for the building」 と発声します。
ただし、この英語を読んでいるナレーターによっては、
“braved the rain to wait”まで一気に読んで息継ぎするかも知れません。
その場合は、ここまでを意味上の一塊(チャンク)としても発声します。
このように、どこをチャンクとするかは、自分で意味を把握できたかどうかという点に加えて、ナレーターの息継ぎにも影響を受けます。
どっちにしても、意味を把握しながらシャドーイングすることに変わりはありません。
“braved the rain …”「雨をものともしない」で区切るか、”braved the rain to wait”「雨をものともせずに待っていた」で区切るか。それは、どっちでもいいことです。
同様に、 “to open at 9 a.m. ” “on June 22. ”
で意味を把握できますので、それぞれを聞き取ってから一気に発声することになります。
上記の英文の日本語訳は、to wait for the building to open at 9 a.m.on June 22. 「6月22日、午前9時にそのビルがオープンするのを待っていた」となります。
意味を把握しながらシャドーイングすれば、このように意味上の塊(チャンク)ごとに発声することになります。
それができていないとすれば、意味を把握できていないことになります。
音声より早口になっていないならシャドーイングではない
上記の説明で疑問をもった人がいるかも知れません。
「意味を把握しながらシャドーイングするなら、発声する時間が足りない」と。
その通りです。
この疑問をもったことがない人は、シャドーイングを適切に練習できていないと思っています。
どうしたって、発声する時間は足りません。
聞こえた音声の意味を把握して、チャンクごとに発声するなら、どうしたって足りないのです。
では、どうするか。
早口にするしかありません。
流れてくる英語の音声と同じスピードで発声していたら、シャドーイングは不可能です。 音声より早口で発声するから、シャドーイングできるのです。
さらに、早口にするためには、声は小さめの音量になるはずです。
流れてくる英語音声のナレーターのように、はっきりと大きく発声するなんて不可能です。そうする必要もありません。
「音声より早口にしていないのにシャドーイングしている」という人は、単に声を被せているだけで、意味を聞き取って発声する、というシャドーイングの本質をやっていない可能性があります。
ここまで読まれ方で、まだシャドーイングのイメージがつかめない方は、実際にシャドーイングしている音声を聞くしかありません。
シャドーイングで一番有名な教材として、「KHシステム」があります。 この教材には実演CDがついていますので、これを聞いてみてください。
通訳の著者がやっている実演CDを聞くと、シャドーイングする際には英語音声より早口になっています。意味をとりつつシャドーイングすれば、どうしたってそうなります。
オーバーラッピングとシャドーイングをやるときはヘッドフォンをずらす
オーバーラッピングとシャドーイングは、英語の音声を聞きつつ自分でも発声するトレーニングです。
英語の音声、自分の声。その両方が適切に聞こえるようにするには、どうしたらいいでしょうか。 ヘッドフォンをずらすに限ります。
些細なようで大切なテクニック
「ヘッドフォンのずらし」というのは、英語学習で欠かすことのできないテクニックです。
ヘッドフォンをかぶるときに、少しだけ耳からずらす。 そうすると、ヘッドフォンの音声も聞こえるし、自分の声も聞こえる状態になります。
英語の音声と自分の声が聞こえることによって、オーバーラッピングやシャドーイングを適切に行うことができます。
ちなみに、これ以外の方法では、英語の音声と自分の声の両方を聞くことができません。
1.スピーカー (×)
CDやモバイル機器のスピーカーを使うと、自分で発声したときにスピーカーの音声が聞こえ難くなります。
2.イヤフォン (×)
イヤフォンを使うと、英語の音声はよく聞こえますが、自分の声が聞こえ難くなります。
体の内部の振動を通して聞こえてくる自分の声(=骨伝導)だけでは、自分がしっかり発声できているのか不安になります。
3.ヘッドフォン (×)
イヤフォンのときと同様に、英語の音声は聞こえますが、自分の声が聞こえ難くなります。
4.イヤフォンのずらし (×)
イヤフォンは耳の中にはめ込むものなので、上手にずらすことができません。
5.ヘッドフォンのずらし (○)
ヘッドフォンは頭からかぶるので、耳から少しだけずらすことができます。 英語の音声と自分の声の両方を聞くことができるのは、この方法だけです。